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中村隆英・御厨貴『聞き書 宮澤喜一回顧録』岩波書店 2005年 ISBN:4000022091
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本書は、宮澤喜一元首相・蔵相への聞き書きによる回顧録、いわゆるオーラル・ヒストリー(口述歴史)である。インタビュアーには、日本を代表する政治学者のお一人である御厨貴氏、また宮澤氏が経済企画庁長官当時、同庁の経済研究所長であった中村隆英氏のお二人が当られたということで、かなり突っ込んだ質問なども出るかと期待して読んだ。 全一一章からなる緊張感溢れるやり取りは、さすがと感じさせる一方で、やはり後半になってくると、話せることも自ずと限られているという様子が伝わってくる。その意味ではやや物足りない部分も残る。にもかかわらず、これが第一級の生き証人の証言であることは間違いない。何しろ経済企画庁官(通算二回)で初入閣して以後、通産大臣、外務大臣、大蔵大臣(通算二回)、総理大臣を歴任し、党でも宏池会という派閥の領袖など節目節目に要職をこなしてきただけの人物の語りである。面白くなかろうはずがない。 また宮澤氏の周辺の人々に対するスタンスや評価も行間から滲み出ており、じっくりと味わいたい。国際派ならではの外国の要人に対する評価も面白い(たとえばブッシュ父に対する高い評価と、逆に現ブッシュ大統領に対する辛い評価など)。 そんな宮澤氏が、戦後日本史の大きな分岐点として挙げているのが、「60年安保」と「プラザ合意」である。宮澤氏自身は「意外に感じられるかもしれないが」と述べているが、間違いなく「プラザ合意」は、戦後日本の大きな分岐点であろう。しかし、「あの時(バブル崩壊時)に何かやりようがあったかということを、これもあとになって聞かれるんですが、しかし考えてみると、それだけの状況が整っていないんです。私が気がついて問題を指摘はしているものの、そうだ、そうだと言って、みんなでやろうというようなことにはならないというのが実情でございました」と述べられているバブル崩壊時の「状況」や「実情」などがより明らかになるには、もう少し時間がかかるのかもしれない。 そのほか、佐藤内閣時の日米繊維交渉も興味深い。自由貿易の原則からすればかなり無茶な繊維交渉が、田中角栄による業界救済策によって「手打ち」となった経緯など、宮澤氏にしてみればあまり思い出したくない話なのだろう。自らの哲学を貫けなかった後悔が読み取れる。 これら数々の貴重な証言は、当時の状況をよく踏まえて「解釈」される必要があろう。こうしたオーラル・ヒストリーをベースにした本格的研究が現れることを期待したい。 (『週刊東洋経済』2005年6月4日号)
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