最終更新日:04.04.04
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坂本多加雄『新しい福沢諭吉』講談社現代新書 1997年 ISBN:4061493825

(c)講談社
 「新しい」福沢,である。著者は,福沢の「文明」に関する言説を読み解くことで,“西欧文明=文明”論を相対化する視点を提示しようとする。そこでは,「独立」と「情愛」/「徳義」と「文明」/「政治」と「財産」/「惑溺」と「自由」/「立国」と「偏頗心」,とまさに「矛盾の体系」と呼ばれた福沢の思想のキーワードが取り上げられ,その各々が非常に重要な「現代的」問題を含んでいることが示されていく。新書という制約もあってそれぞれの章の掘り下げにやや物足りなさを感じながらも,こうして改めて福沢が提示してきた問題の「現代性」に驚かされる。一読をお勧めしたい。

 疑問点を二つ。「人間交際」の基盤たるものを認識し,社会を「文明」へ導くのが「聡明叡知」の働きであり,その結果として「経済の定則」=市場システムの原理を重視したというのが,福沢の市場経済観であり,またそれがスコットランド啓蒙主義の系譜を引くもの(ルソーなどの近代思想とは別系統のもの)であることは首肯しうるとして,さらに福沢にはそれを超えるようなオーストリア学派的な「企業者」観があったとするのは,ちょっと首をかしげざるをえない。ミーゼスやハイエク的な「市場」観とシュムペーター的な「企業者」をそう簡単に結びつけられるのかという点も疑問である。

 オーストリア学派への近接という意味では,マクロード,バスチア,ペリーなど「交易の学」としての「経済学」を信奉し,需給決定の心理的要因を重視した田口卯吉を検討すべきであろう。田口の経済学のほうが,福沢よりもより「経済の定則」=市場システムの原理を重視しているのはいうまでもない。


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