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陳天璽『無国籍』 新潮社 2005年 ISBN:4104740012
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著者の陳天璽さんは、横浜中華街で生まれ育った在日華僑の二世である。ご両親は中華人民共和国成立時に国民党政府とともに台湾に移り、そこで出会い、さらに日本に移り住んだ。その陳さん一家にとって、一九七二年の日中国交回復は大事件であった。日本が台湾との国交を断絶したからである。日中台の複雑な政治関係の狭間にあって、陳さんご両親はあえて「無国籍」という立場を選択する。陳さんが一歳のときであった。 その後、彼女の前に大きく立ちふさがってきたのが、この「無国籍」という問題であった。最初はこの問題に真正面から取り組むことを避けていた彼女だったが、日本の高校、筑波大学への進学、香港、アメリカへの留学と歩んでいく過程で、同じ問題を抱えた人々との出会い、変化が生じる。そして、自分自身のアイデンティティの問題とオーバーラップさせながら、彼女は研究者として、この「無国籍」という問題に立ち向かっていくこととなる。 自分自身もが抱える問題を研究者としての視点から客観的に分析することは、想像以上に困難なことである。事実、彼女自身もしばしばとまどい、ときに傷つく。国籍の壁を越えて信頼しあっていたと信じていた男性との別れも、もしかするとよくある「遠距離恋愛」につきもののエピソードなのかもしれないが、「僕は日本人として、日本の社会のなかで生きていくのが一番いいんだ」という彼の言葉は、お互いを「遠い存在」にしてしまうのに十分であった。こうした困難を乗り越えながら、彼女は運命の糸が導かれるかのように自身のテーマに戻っていく。 生れた時から「日本国籍」を空気のように思っているわれわれ普通の日本人にとっては想像することすら難しい「無国籍」の問題だが、しかし、決して他人事の問題ではない。たとえば沖縄の米国人男性との間に生まれた子どもたちの問題がある。あるいはオーバーステイとなった外国人から生まれる無国籍の子どもたちの問題がある。国際化、グローバル化が必然的に人々の移動を伴う現象である以上、こうした問題は決して特殊なケースではなくなりつつある。また広く世界全体に目を向けるならば、さらに問題は広がっていく。 本書の魅力は「無国籍」の問題を具体的に叙述していることに留まらない。もちろん、国家が国民の国籍を保障して事足れりとする立場からも距離が置かれている。現実の国際社会において、国家や民族という近代社会が当然視してきた括りを相対化していく視点が本書にはあるからだ。
『週刊東洋経済』2005年4月16日号掲載
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