最終更新日:04.04.04
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杉山正明『遊牧民から見た世界史―民族も国境もこえて―』日本経済新聞社 1997年 ISBN:4532162297

(c)日本経済新聞社
 中央ユーラシアというとわれわれは,隊商が行き交う砂漠と草原,シルクロード,あるいは「騎馬民族」の興亡の地といったイメージをなんとなく思い描いてしまう。とくに東西文明の視点からは辺境・野蛮という単純なレッテル貼りですましてしまう傾向がある。

 この本はそうした「偏見」に対する啓蒙書であると同時に,返す刀で「民族」「国境」といった近代が生み出した概念を歴史に援用することの危うさを繰り返し主張する。また歴史のダイナミズムを経済の視点からのみとらえようとする物言いについても,非常に厳しい。

 むろん近現代になればなるほど,人と時代を動かす原因として,経済要因のもつ比重が高まるのは事実である。だが,現代においてさえも,経済以外の要因,とくに軍事力や政治力によって世界が動いていることも,紛れもない事実である。まして,歴史研究,ことに前近代の歴史研究において,はたして経済要因がどれほどの決定力をもちえたのか,そもそもその点こそが大いに問題となる。

 という著者の言葉は「以て銘すべし」であろう。

 もっとも著者が,陸と海のユーラシア循環が形成される13〜14世紀に,「銀」を媒介とする共通の価値尺度をもつ「世界」が誕生していくとみていることからもわかるように,経済の問題をないがしろにしているわけでは決してない。しかし,近代西欧国家以上に「重商主義」的であったモンゴル帝国を知れば知るほど,近代西欧国家が類稀な「軍事国家」であり,もっとも野蛮な所業をおこなってきたことが逆に照射されてもくる。

 啓蒙書ということもあって(注)は一切ないかわりに,<備忘録>が随所に挿入され読者の理解を助けている。耳慣れない中央ユーラシアの“人々の集団”の名前にいささか酔いが回った頃に,「遊牧民はつらい」とか「元氏と源氏―拓跋国家における漢姓と日本の賜姓」などといったコラムが挿入されることで読書は一気に進んでいく。


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