最終更新日:05.02.07
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永原慶二『苧麻・絹・木綿の社会史』吉川弘文館 2004年 ISBN:4642079343

(c)吉川弘文館
 昨年七月に亡くなった日本中世史の大家、永原慶二氏の遺著である。日本史における代表的な衣料原料であった苧麻、絹、木綿を軸に、古代から近世に至る社会の、生産と流通、都市と農村、そして権力との関係の統合的な把握を目指した本書は、まさに著者の長年の研究の到達点を示す内容を備えた書物であると言えよう。

 思えば昨年は、大胆な史料解釈を通じて、日本史学界に影響を与えてきた網野善彦氏も亡くなっている。本書では、中世における絹生産の展開に関する網野氏の解釈に対して、きめ細かい史料批判に基づく異議も唱えられている。決して派手さはないが、著者の中世観が表明されている「III 荘園制下の桑・糸・絹・綿」は圧巻である。

 また喜ぶべきことに、本書には、絶版となっていた『新・木綿以前の事』の改訂版が、晩年の研究成果を存分に取り入れられた形で収録されている。柳田国男の名著に「新」を付けることは、著者にとっても思い切ったことだったであろう。それだけに本書収録の改訂版では一層内容も文章も吟味されたものとなっている。

 民衆衣料の素材として長い歴史を持つ苧麻の世界から外来の木綿を軸とした世界への転換は、戦国末期からドラスティックに進行していった。木綿という特定の農産物の相当部分を商品として売り出すような農家が数を増し、社会的分業が進み、商品経済が拡大するという大きな変化は、柳田が指摘した以上の、革命的な生産・流通・消費の変化だった。本書IIで論じられている古代から近世前期の苧麻生産のあり方も木綿のインパクトを経て、大きく変わっていった。染料や肥料の生産、稲作のあり方も変貌を遂げた。まさに木綿は日本の社会を一変させたのである。

『週刊東洋経済』2005年2月5日号掲載


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