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橋爪紳也『飛行機と想像力―翼へのパッション』青土社 2004年 ISBN:4791760980
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人類の「空を飛びたい」という夢は,二〇世紀の初頭,アメリカのライト兄弟によって現実のものとなった。それから一〇〇年,飛行機そのものの歴史は,ほかのさまざまなテクノロジーの発展の歴史と同様に多くが語られてきた。 しかし,飛行機が登場してきた当初,それが人々にどのような驚きをもって迎えられたのか,そして人々の想像力をどのように掻き立て,新しい「哲学」を生み出させるに至ったのかについて語られているものはそう多くはない。人々が当たり前のように飛行機を利用し,地点から地点を高速で移動している現在,その生誕の時代に想像力を働かせること自体,ますます難しくなってしまっているからかもしれない。 にもかかわらず,本書が飛行機黎明期の時代精神をよく把握しえている理由の一端は,日本における飛行機の登場が新聞社のイヴェントによって先導されたという事実そのものに拠っている。本来その場限りであるはずの飛行ショーの様子などをわれわれが認知し得るのは,まさに新聞が飛行機を「見せ物」として紹介したからにほかならない。飛行機という新しいテクノロジーが新聞メディアによって喧伝され,逆に飛行機が新聞というメディアを巨大化させていった。ほかのメディア・イヴェントとの比較分析を欠いているのは残念であるが,少なくとも,飛行機がメディア・イヴェントの重要な構成要素であったことについては説得的である。 さらに広告・宣伝,遊園地の飛行塔,双六,ラジオ・ドラマにまで飛行機の「高さ」「速さ」「距離」の感覚が反映されていったことを,著者の丹念な資料の渉猟は示している。本書に数多く収録されている図版を眺めているだけでも,当時,人々がいかに飛行機に関心を抱いていたかがわかる。 また本書は,飛行機の出現によって登場した新たな哲学・思想にも言及する。たとえば,一九三〇年が時代の転換であると見なす哲学者多田憲一の著作に見られる思想などは,のちの科学や芸術,戦争のあり方を見事に予言し,今なお重要な論点を含んでいるものと言えよう。 さらに飛行機の出現によって得られた「俯瞰するまなざし」は,「防空」「国防」という時代の潮流に棹さしながらも,新たな「理想都市」のコンセプトを生み出していった。逆に飛行機によってもたらされた上空への意識は,近代都市の異相のひとつとしての「上空都市」を想像させた。 飛行機を軸に多様な論点を包含した本書は,同時に多様性としての近代を映し出す合わせ鏡ともなっているのである。
『週刊東洋経済』2004年6月12日号掲載
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