|
久保文克『植民地企業経営史論―「準国策会社」の実証的研究―』日本経済評論社 1997年 ISBN:4818809128
|
|
![]() |
1997年11月22日経営史学会関東部会において,この本が合評会という形で取り上げられ,コメンテーターは東大社会科学研究所の橘川武郎氏がおこなった。橘川氏の同書への論評は,『週間読書人』(1997年3月28日号)ですでに出されているが,ここでは橘川氏の同書に対する疑問点とそれに対する私の意見を書いておきたいと思う。 橘川氏は第一に,同書の副題にもなっている「準国策会社」の概念が曖昧であり,「国益志向」というメルクマールを"中心"に定義づけがなされる「準国策会社」も民間会社の一つとしてとらえるべきではないか,と指摘する。 問題は,「準国策会社」という概念の作業仮説としての有効性をどうとらえるかだろう。今の時点では台湾製糖一社がその事例として挙げられているだけで,比較史という観点から今後有効な概念になっていくことを否定すべきではないけれども,わざわざ誤解を招きやすい「準」を用いる積極的な意味合いを見いだせないように思う。 第二に,台湾製糖の消極的経営方針のエートスを「国益志向実業のエートス」としてとらえることが妥当か,という点。 橘川氏は,同様に「国益志向実業のエートス」を持ち合わせていたはずの台湾銀行を事例に引きつつ,「国益志向」から「消極経営」という事実を説明することに対して疑問を提示されている。 私も,この点に関しては,「国益志向」=「非市場志向」=「非合理的」という含意は見いだせても,「消極経営」ということを強調するのは,行き過ぎのように思う。 第三点は,植民地企業の経営史から「アジア経営史」を構築するという展望が,不鮮明だということであるが,ここは難しいところである。 アジアにおける植民地という問題は,欧米の植民地と日本の植民地,さらに欧米対アジア,欧米対日本,日本対アジアという軸が錯綜している点だからである。植民地企業の経営史という観点からだけでは解き明かせない,ということは橘川氏に賛成だが,だからといって「(日本の)植民地企業の経営史」にかんする実証研究が重要ではないとは思わないのである。
|
|
Amazon.co.jp から注文 |
|
© 2004 NAKAMURA Muneyoshi. All rights reserved.